本文へスキップ

少年院での仕事を通して知らされる、縁の大切さ 平成23年6月25日(土)梅田  発表者:タキさん

私の仕事は「法務教官」といいまして、少年院の先生をしています。
今日は私が、仕事を通して出会う子供たちからいつも教えてもらっている、
「縁」の大切さということについて、話をさせてもらいたいと思います。
「縁」というのは、「環境」とか「きっかけ」というような意味です。
日本人にはなじみのある言葉ですので、聞かれたことがある方も多いと思います。

少年院に入ってくる子供たちの多くは、

その「縁」に恵まれない人生を送ってきています。
まず、子どもにとっておそらく一番大切であるはずの「家族」という縁です。
少年院に入っている少年は、そのほとんどが幼い頃、両親の離婚を経験しています。
また中には、親から虐待を受け「誰も信用できない」と心を閉ざしている子もいます。

最も親の支えを必要とする時期に、その親がどちらか一人、または両方いなかった、
それどころか自分の安全を脅かす存在だった。これは耐えられないことだと思います。

私が昨年秋に担任していたA君の家庭も、そうでした。彼は、父親の顔を知りません。
さらに彼の場合、唯一の兄弟である兄とも、ほとんど会話はなかったというのです。
A
君の世界は、インターネット上の仮想空間にほぼ限定されていました。学校には毎日
通い、成績も上位に入る、いわば優等生であったA君。しかし友達と呼べる人はおらず、
朝起きてから夜寝るまで、一言もしゃべらなかった日も少なくなかったといいます。
家族の次に大きなウェイトを占めると「学校」という縁も、彼の場合希薄でした。

彼はそういう一人ぼっちの生活を続ける中で、インターネットの出会い系サイトを介し
て知り合った3歳年下の子と、いわゆる「バーチャル・デート」を繰り返しました。そし
て数ヵ月後、初めて直接会うことになったわけですが、生来無口な彼は結局その女の子
の前でネット上での「おもしろいキャラ」を発揮できず、「つまんない」と振られてし
まいます。

その帰り道、彼は見ず知らずの酔っぱらいを、腹いせに十数発殴り、逮捕されました。

一見「おとなしい」「まじめな」子が犯罪を犯すと誰しも驚き、「なぜ?」となります。
しかし、そういう子供でもこういった問題を抱えて生きているのです。
そして、まじめであるために誰にも言えず、適度に発散させることもできずに、心の中
に非行の芽を育てていくのです。そして、「縁」が来れば花が開いてしまう。
そして彼らはその芽を育てていくうち、こう考えはじめます。
「誰からも必要とされていない私。ガラクタだもの、生まれてこなければよかった」
「なんで生きなきゃいけないのかな。サッサと生きて、サッサと死にたい」
これが、彼らの本音です。ピアスやチェーンやブーツで身を固めた彼らの、裸の姿です。


自分の命の重さがわからなければ、他人の命も大事にできません。
窃盗・恐喝・そして殺人など、すべての犯罪の根底にあるのは、「命の重さ」のわから
ない心、「人間に生まれてきてよかった!」という心がないからだ、と言われます。
そして彼らは、「だから誰にどんな迷惑をかけたっていいんだ」と投げやりになって、
同じような考え方の「仲間」と一緒に非行をします。そういう子がほとんどです。
ともに非行する仲間。これも、縁です。いい縁と悪い縁とがあるとわかられると思いま
す。彼らはことごとく悪い縁を選び続け、その結果として少年院にまで来てしまうのです。

さて、そういう子が万引きやひったくりやリンチ事件を起こして入ってくるわけですが
、少年院の生活はとても規則正しくきっちりしています。その一部を紹介します。


毎朝6時半に起床。すぐに掃除をして7時から朝食。そして8時からは「集会」といっ
て、昨日一日を振り返り反省や助言をお互いに述べ合う時間が毎日あります。


9時半から体育館で朝礼をした後は、畑に出て行って花や野菜を育てたり、体育館で
トレーニングをしたり、教室で進学に向けた学習にとりくんだりと、みっちり訓練を受
け、宿舎に帰ってきても担任の先生に与えられた課題に一日中取り組んでいます。
彼らはボールペンを、2週間に1本使い切ります。30枚のノートなら、3週間です。
そういう衣・食・住の「いい縁」がそろった環境の中で半年間から長くて約2年生活し
、ほとんどの子が2度と非行をしないような人間になって社会に帰っていきます。

しかし、中には少年院に入った後も、今までの「縁」に引きずられる子もいます。
私が最近まで担任していた、B君という子がその一人です。
B
君は、3歳で両親が離婚し、その直後に母親を交通事故によって亡くしています。
そのトラウマをひきずったまま成長し、自信や安心感を持てずに中学校を卒業しました。
そして暴走族に入り、無免許運転や集団での危険行為を繰り返して、最後は彼女と2人
乗りしていて事故を起こし、逮捕されたのです。彼女は全治3週間の大けがでした。
そんな彼は少年院に入っても、なかなか自分を大切に感じることができず、
少年院生活の中でもこれまでのような表面的な人間関係を作ろうとし、
陰で同じ少年院生と連絡先を教え合うなど、大きなルール違反を4回も繰り返しました。
私はそのたびに、自分のこれまでの経験や知識を総動員して彼とぶつかってきました。


しかし、まるで鉄板の上に種をまいているようで、なかなか効果が見えずにいました。
それだけ私が無力だったのと、彼の抱えている問題が大きかったのです。
「どうしたらいいんだろうか。」と、家に帰っても悩む日が約3か月続きました。

そんなある日、考えを180度変えてみたのです。
「どうしてあんな家庭環境の中、死なずに今まで生きてきたのだろう」と。
自分が同じ環境に置かれたら、間違いなく全てを投げ出していただろう、と思いました。
まさしく今日のテーマである「縁」の大切さを思い出したのです。

すると、からまっていた糸がするするとほどけるように、
いま現に彼がしている「当たり前」のことに、気づくことができるようになりました。
そしてそれを彼に伝え、今健康で生きていることを「すばらしい」と認めることから
かかわりあいをもう一度始めたのです。すると彼の表情が明らかに変わってきました。
その劇的な変化は、面会に来たおじいさん・おばあさんも驚くほどでした。

そして2カ月後。最後の面談は、B君も僕も涙を流しながらのものになりました。
B君は「先生と出会ったから、こんな自分でも生きていていいんだと思いました。」と
語り、私は「君と出会ったから、自分の限界に気づいたし、ものごとの見方が大きく変わった。」と答え、私たちはお互いが出会った「縁」に、感謝の言葉を述べあいました。
別れ際に握手をしたB君の手は、もう非行をしていた時のこわばった骨ばかりのもので
はなく、生きていこうという活気が伝わってくる暖かい手でした。忘れられません。
彼は今日もきっと、家庭という縁の中で元気に生活しています。
私たちの心は、強そうに見えて弱いものです。縁次第でどうにでもなります。

<参加者の声>

◆感動しました、「つらいなか、よく生きてきたんだね」という考え方すごいと思い

 ます。

◆縁はすごく大切だと改めて思いました。話を聞いてすごく心が温まりました。
 
 縁はなかなか切れないけれど、いい縁をそういう切れない縁にしたいと思います。

 色々なところに行って、色々な出会いを大切にしていきたいと思います。 ◆心の温まる内容で感動しました。人の人生を変えることのできるタキさんが

 とてもすばらしいと思いました。
 
 私もそのような人になりたいし、そのような人との出逢いをしたいです。

◆普段知ることのできない世界を少し伺い知ることができて刺激になりました。

◆動かし難い山のような相手さんでしたが、自分自身が色々な発見をされる縁と
 
 なったのだなとわかりました。

過去の勉強会ピックアップ  

ページトップへ


社会人サークルおおさか勉強会